強制動員調査をめぐる動き・2016年   

 

ここでは2016年を中心に戦時の強制動員(強制連行・強制労働)調査の動きについてまとめ、今後の課題を考える材料としたい。

 

1 韓国の動き

 

 韓国での動きからみておこう。

201512月末、韓国の強制動員被害調査支援委員会は解散した。その調査と支援の部門は韓国政府の自治行政部の過去事関連業務支援団の2課(調査研究課と被害支援課)へと移行した。委員会の残務処理により、2016年に入って、『委員会活動結果報告書』が出版され、その日本版も出された。201512月には釜山に建設されてきた日帝強制動員博物館が開館した。開館後、国立博物館に登録された。同年8月には強制動員被害者の合同慰霊祭がもたれた。また、陜川で公設の原爆被害資料館の建設をすすめる動きもある。陜川原爆被害者福祉会館の横に建設が予定されている。

日帝強制動員被害者支援財団の動きをみれば、財団は無効訴訟が起こされたことにより、活動ができなない状態であったが、20161月の最終決着を経て、活動がすすめられるようになった。8月にはポスコが30億ウォンを拠出した。その後、70億ウォンの計100億ウォンを拠出する予定である。1128日には、財団主催で強制動員資料の世界遺産推進に関するシンポ(釜山)がもたれた。

なお、20151223日、韓国憲法裁判所が日韓請求権協定の違憲判断について、回避した。

民間での動きについてみれば、民族問題研究所による植民地歴史博物館建設運動がすすめられてきた。同研究所は2015に強制動員のDVDを作成した。

韓国での裁判についてみれば、819日、新日鉄住金訴訟はソウル中央地方法院で1億ウォンの勝訴をえた。825日には同法院が三菱徴用工遺族の判決で4人の遺族に126000万ウォンを命じた。三菱名古屋訴訟は第3次訴訟がすすめられ(11月弁論)、3次の訴訟の原告数は11人となる。不二越第2次訴訟では1123日、同法院は不二越に対し、被害者5人に5億ウォンの支払いを命じた。地方法院・高等法院での勝訴が続いている。大法院の早期の判断が求められる。

 「慰安婦」問題では、20151228日に日韓政府による「合意」がなされた。日本軍の関与を認め、韓国政府が財団を設立し、日本政府が10億円を拠出するというものだった。それに対し、当事者抜きの合意であると、韓国内での抗議の声が強まった。財団は和解・癒し財団とされたが、挺対協は対抗して、正義記憶財団の設立をすすめた。

韓国内では歴史の継承にむけて、ソウルの戦争と女性の人権博物館をはじめ、ナヌム、テグ、釜山など4カ所に慰安婦の歴史館が建設され、「女性たちを記憶する森」の設置や各地での少女像の建設がすすめられ、釜山では日本領事館前に少女像が置かれた。11月にはユネスコ記憶遺産登録のための国際会議がもたれた。台湾では「阿媽の家 平和と女性の人権館」が開館した。

1228日韓合意については、201612月、韓国国会で大統領の弾劾が採択され、次期大統領の有力候補が見直しを主張している。

 

2 日本の動き

 

 日本では、20163月、強制動員真相究明ネットワークが名古屋で全国集会をもち、

10月には「朝鮮人強制動員Q&A」(改訂版)を発行した。朝鮮人強制労働被害者補償立法をめざす日韓共同行動は2月、10月、12月と集会をもった。名古屋三菱訴訟では品川での毎週の金曜行動が継続され、不二越や新日鉄住金への抗議行動もおこなわれた。

 各地での強制動員調査についてみれば、山口の長生炭鉱の埋没遺骨調査では、沖縄の現地調査で沖縄出身者2人の遺族が判明した。京都のウトロでは地区の整備がすすめられ、新住宅が建設されることになった。大阪では砲兵工廠での朝鮮人空襲被害者への聞き取りがなされた。長野では朝鮮人農耕勤務隊の調査がすすめられた。沖縄では、特設水上勤務隊の調査や「平和の礎」への朝鮮人刻銘の再開が要請された。長崎では、三菱長崎造船への被爆認定がなされなかったために、9月に金成洙さんと「漢燮さんが提訴にふみきった。

明治産業革命遺産では、政府(世界遺産登録推進室)が201712月にユネスコに強制労働についての説明計画を提出する予定である。

戦没者遺骨収集推進法が制定されたが(2016.4施行)、そこでは、遺骨を遺族に引き渡すことが明記された。沖縄戦遺骨の発掘がなされることになるが、朝鮮人軍人軍属の遺骨への対応を求めて、国会での要請行動がなされた。韓国で遺伝子銀行の構築の動きもある。

20165月、ヘイトスピーチ解消法(本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律)が成立した。

歴史修正主義による群馬、奈良、松代、飯塚、大阪など朝鮮人追悼碑への攻撃は続いている。Wamへの脅迫もなされた。大阪・呉では、育鵬社教科書の採択での介入が問題となり、呉では訴訟となった。12月の安倍首相の真珠湾訪問に対しては公開質問状が出され、訪問直後には稲田防衛相が靖国神社に参拝した。

中国人強制連行では、三菱マテリアルとの和解が6月までになされた。そこでは、三菱マテリアルが約3700人の連行者・遺族に謝罪し、基金をつくり、調査費をふくめ三菱が費用をもって追悼碑を建設することが示された。三菱は連合軍俘虜、中国人についての強制連行についてその責任を認めるが、朝鮮人の連行については認めようとしない。

中国では126日に鹿島への提訴がなされた(長野・群馬への連行者)。日本での大阪・花岡国賠訴訟もすすめられた。11月には信濃川水電工事の中国人連行追悼碑が完成した。

強制労働関係では、長崎で2015年に建設された連合軍捕虜追悼碑の報告書がだされた。ウズベキスタン・タシケントの自宅に「日本人抑留者博物館」をつくった館長ジャリルスルタノフが20161月に来日した。また、ロシアの国立強制収容所博物館の例を示す報道(中日12.20夕)などもあった。

 

3 2016年度の書籍・映画

 

2016年度に出版された強制労働関係の書籍には、対日抗争期強制動員被害調査及び国外強制動員犠牲者等支援委員会『委員会活動結果報告書』、李鶴来『韓国人元BC 級戦犯の訴え何のために、誰のために』梨の木舎、伊藤智永『忘却された支配 日本のなかの植民地朝鮮』岩波書店、飛田雄一『心に刻み 石に刻む』三一書房、雨宮剛『もう一つの強制連行 謎の農耕勤務隊 足元からの検証』文芸社(文庫版)、『軍艦島に耳を澄ませば 端島に強制連行された朝鮮人・中国人の記憶・増補改訂版』社会評論社、強制連行中国人殉難労働者慰霊碑資料集編集委員会『強制連行中国人殉難労働者慰霊碑資料集 日本僑報社、『法廷に刻み込んだ真実』(三菱名古屋訴訟の資料・韓国語)、『福岡俘虜収容所第2分所犠牲者追悼記念碑除幕・平和記念式報告書』、『ひかり 海の底深く』(山口武信追悼文集]長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会、『元朝鮮人軍夫 姜仁昌の証言 恨をかかえて』沖縄恨之碑の会、広瀬貞三「戦前の三池炭鉱と朝鮮人労働者」『福岡大学人文論叢』482などがある。

関連して、西崎雅夫『関東大震災朝鮮人虐殺の記録 東京地区別1100の証言』現代書館、小熊英二  高賛侑・ 高秀美『在日二世の記憶』集英社、神奈川新聞「時代の正体」取材班『ヘイトデモをとめた街』現代思潮新社なども出された。

また、『抗い記録作家林えいだい』RKB毎日放送、永瀬隆を追った『クワイ河に虹をかけた男』KBS瀬戸内海放送なども制作された。

「大原社会問題研究所雑誌」では、201512月(686号)、20161月(687号)と「朝鮮人強制連行研究の成果と課題」の特集を持った。掲載論文は、愼蒼宇「特集にあたって」、樋口雄一「朝鮮人強制動員研究の現況と課題」、竹内康人「朝鮮人軍人軍属の強制動員数」、韓惠仁・南相九「韓国における「朝鮮人強制動員」問題の現状と課題」(以上686号)、實康稔「長崎と朝鮮人強制連行―調査研究の成果と課題」、金優綺「北海道における朝鮮人強制連行・強制労働と企業「慰安所」」、鄭祐宗「朝鮮人強制連行研究における「労働力不足説」「労働力充足説」の検討」(以上687号)である。最近の市民運動の動きについては、吉澤文寿「朝鮮人強制連行関連地域における市民運動の取り組み」「新潟国際情報大学 国際学部紀要」1(20164月)がある。これら論文の多くがPDFとされ、ネット上で閲覧ができる。

「慰安婦」関係の書籍では、前田朗編『「慰安婦」問題・日韓「合意」を考える』彩流社、山口智美・能川元一・テッサモーリススズキ・小山ミエ『海を渡る「慰安婦」問題』岩波書店、日本軍「慰安婦」問題Webサイト制作委員会『「平和の少女像」はなぜ座り続けるのか 増補改訂版』世織書房、鄭栄桓『忘却のための「和解」』世織書房などが出された。